代表 高橋 功
住所 大田区羽田

 国内最大級のターミナルを有し、首都圏における空の玄関口となっている羽田空港。その空港の近くに広がる下町で、戦後からお店を構える相模屋さん。そろばんを片手にご主人の高橋功さんと一緒にお店を仕切る先代の奥様のりんさんはなんと92歳。今回はそんな歴史を感じさせる相模屋さんでいろんなお話をうかがってきました。

お店はいつ頃から始められたんですか?

大きな旗が目印です

 最初は両親が日用雑貨を売る商売をやっていたんですよ。それが昭和20年頃からでしょうか。それからたばこの許可を取って営業を始めて、20年ぐらい前から専業になりました。今は母親と二人で交代にお店に立っています。
 このあたりは戦争で全部焼けちゃいましてね。当時はモノが無かったから、たばこを売り始めた頃は嗜好品としても人気がありましたよ。同じように戦後から商売を始めた人も多くてね。蕎麦屋さんとかお風呂屋さんとかに自転車でたばこを配達したりもしましたよ。

このあたりは昔と変わりましたか?

川に浮かぶ昔ながらの屋形船

 この辺は昔、漁師が多かったんですよ。実は今の空港のターミナルビルのあたりが漁場だったんですね。海苔の養殖とか、シャコやえびが獲れました。船を持っている人や乗組員の人は大体たばこが好きだからね。よく買ってくれました。今でも釣り船屋さんは近くに4件あります。ハゼなんかは今でもこの前の川で釣れるんですよ。たまに釣り大会などやってますよ。だから夏はうちの売上げも上がりますね。釣れないとみんなたばこ吸ってゆっくりするんだよね(笑)。そういう暇な時はいつもと違う銘柄を吸う人が多いから、普段出ないような変わった銘柄が出るんですよ。だから普段売れないからといって、銘柄を減らすことができなくて、結局たばこの種類は130種類ぐらいになります。

羽田空港の影響はありますか?

 お客さんにタクシーの運転手さんが多いんですよ。空港までお客さんを送った帰りに、たばこを買いに寄ってくれるんですね。空港へのメイン通りはバスが走っていてすごく混みます。そういうのをタクシーの運転手さんはよく知ってるんだよね。だから、あえてうちの前の道を通るんですよ。後、朝早くにはパイロットやスチュワーデスさんを空港まで送っていくからね。

先代は92歳だそうですが、大変お元気ですね。何か秘訣でも?

そろばんでまだまだ現役です

 趣味で俳句と詩吟をやっています。前は習字もやっていました。俳句をやるのには筆がうまくないとダメだからね。今でも同人会に入って、いろんなところを歩いて俳句を作っているみたいですよ。たまに老人会の区の新聞なんかに作品が載ったりしていますね。
 あと、長生きの秘訣ではないかもしれないけれど、母親はたばこが好きでね。大正生まれで今は92歳になるんですが、今でも一日2箱ぐらい吸ってるんです。いい宣伝ですよ(笑)。

会計の時、そろばんを使っていらっしゃるそうですね

 そうですね。母親はいまだに五つ玉のそろばんを使っています。もうずっと使い続けている年代物ですよ。もちろん僕は電卓を使っているし、便利だと言ってるんですけどね(笑)。でもちゃんと掛け算もやるし計算上は何も問題ないですよ。まあ若い時からずっと使ってきたわけですからこっちの方がやりやすいんでしょうね。

カートンの箱にメモが張ってありますが?

銘柄がわかるようにメモをふってあります。

 母親は横文字があまり読めないんで、カタカナで銘柄名を書いたメモをつけてわかるようにしてあるんです。割とよく出る銘柄はマークを見れば大体わかるんですけどね。今は種類も結構多いですから。

営業上気をつけていらっしゃることは?

ご主人と先代の奥様のツーショット

 このあたりは地元の人が多いから近所付き合いもまだあるんです。うちのお客さんも常連さんが多いんですよ。だからそういう人の銘柄は覚えておいて「いつものでよろしいですか」と一声かけたり、買っていただいたときにちょっとした世間話をしたり、そういうことには気を使っています。

周辺案内

穴守稲荷神社

 もともとは羽田空港内にあり、京急線の隣駅「大鳥居」から鳥居がずっと続いていたそうです。戦後、空港拡張のために、現在の場所に移転。家内安全・商売繁盛等さまざまなご利益があるとされていますが、羽田空港のそばということもあり、特に交通安全・航空安全にご利益があるとして人気が高いとのこと。

編集後記

 飛行機が飛び交う羽田空港のすぐ近くに、魚が釣れるようなきれいな川が流れる下町が広がっているとは知りませんでした。今でも現役でお店に立って活躍していらっしゃる92歳の奥様も本当にお元気でお若いのにびっくり。歴史と共に地に足の着いた営業をされている感じがしっかりと伝わってくるお店でした。