「塚本商店」さんは繁華街の中心にあるお店なのですね
そうですね。昔ながらの商店街は国道20号沿いにあり、以前は買い物客でとてもにぎわっていました。時代の流れとともに駅の周りに商圏が移ると、今度はそちらに人の流れも移動しました。ですが、このあたりは国道と駅を結ぶエリアの中なので、人通りは多く繁華街となっています。
今となっては、周りには若い人に人気のある新しい店舗ばかりで、戦前から残っている店というのは、うちだけになってしまいました。
戦前からずっとたばこ屋さんを営んでいるのですか?
もともとは織物業として昭和5年に商売を始め、その後たばこ屋へと転身しました。このあたりは戦前、花柳界として栄えた時期がありまして、当時は近くの芸者さんたちにご贔屓にしていただいたものです。戦争がひどくなって商売を中断していた時期もありましたが、戦後に店を再開して現在まで続いています。ここに長く住んで商売をしているからこそ実感するのですが、街や人の雰囲気はどんどん変わっていきます。花街が廃れた後は飲食店街となり、多くの飲食店がカートン買いをしていくようになりました。今は市内に会社や大学もたくさんあるので、通勤通学途中に一箱ずつ買っていかれる方が多いですね。
時代が変わっても地元の人に愛され続ける秘訣はなんでしょう?
「ライターはどの色にしますか?」優しい笑顔で語りかける久太郎さん。
いつもお客さま第一、これがなにより大切なのではないかと思います。たとえばお客さまが知りたいと思われる情報をきちんと伝える…、今はニコチンやタールの量はたばこの箱に印刷してありますが、以前は記載がなかったためこちらで一つ一つ明記して、購入の目安となるような工夫をしていました。
最近ではカートンで購入するお客さまにライターのサービスをする店が増えていますよね。はじめからカートンにライターを貼り付けて売っている所も目立ちます。しかしライター一つでも、その人の好みの色があるはず。「ライターがサービスになりますが、どの色がいいですか?」と声をかけながらすすめてあげると、じっくり選んで持っていかれるんですよ。そんなふうに、ひと手間かけることを惜しまない商売を基本にして、今日までやっています。
店内にはワインもたくさん置いてありますが
年間1000本以上売れる一押しワイン「サン・ヴァンサン・カベルネ
昭和38年から始めた酒類販売は、今では長男(雅一さん)の専門です。特に力を入れているのはワイン。長男は、日本ソムリエ協会認定の“シニアワインアドバイザー”という資格を持っています。またフランス食品振興会から“コンセイエ(ワイン販売の達人)”に認定されるなど、いわばワインのプロなんです。フランスまで買い付けにも行きますし、定期的にワインの試飲会なども主催していて、「高級ワインや珍しいワインを格安で試飲できる」と周辺の方はもちろん、うわさを聞きつけたお客さまがかなり遠くからもやってきます。うちで扱うワインの種類は、10万円近くもする高価な品から1,000円前後の手ごろなものまで本当にたくさんありますが、一概に値段が高ければいいというわけではありません。だからこそお客さまも「ワインをよく知ったアドバイザーのいる店でなければ」と考えられるみたいです。
ご長男と二人三脚で盛り立てているお店なのですね
ずらり並んだ自動販売機のたばこ補充には2時間半かかるそう。
もちろんふたりだけでなく家内や長男の嫁など、家族一同でがんばっています。でも基本的には私はたばこ、長男はお酒と仕事が分かれているんです。現在でも、たばこの発注は電話とFAXですべて私がやっていますし、4台あるたばこ自動販売機の管理も私。これだけ自動販売機が増えると、品の補充も大変です。いつも2時間半ほどかけてたばこの補充をしていますが、言ってみればこれが私の健康法ですよ(笑)。
これからも八王子は変わってゆくと思いますが、それぞれの時代に柔軟に対応して、商売を通じてお客さまとの交流を続けていきたいですね。

「学生の街 八王子」
八王子は中央大学・帝京大学・法政大学などをはじめとして、周辺地域に20以上の大学がある国内でも有数の学生街。駅周辺も若者向けの飲食店や衣料品店、本屋、楽器店、ライブハウスなどが立ち並んでいます。きれいに整備された商店街は、夕方ともなると地域の人や学生さんたちで、毎日にぎやかです。

現在80歳の塚本久太郎さん、取材に訪れた私たちに椅子をすすめてくださり、ご本人は「接客があるから」と立ったままでお話を。なんだか恐縮してしまいました。また、同じ土地で長くご商売をなさっている方らしく、「八王子の歴史そのもの」というお話をたくさん伺うことができ、大変興味深いひとときを過ごすことができました。