1989- 平成
たばこ1つとってもその国の文化がみえてきます

「いっぷくの思い出」入選受賞
【1999/平成11年】
親父が、庭に水撒きをしながら、俺にこんなことを言った。「ものを云わんものこそ、大事にせにゃいけん」何を言い出すかと思えばそんなこと。そのときは意味が良く判らなかったが、黙って頷いた。父は庭の水撒きを終えて、僕に煙草を一本差し出し、自分も一本咥えた。父と僕は水滴が光る眩ゆい庭の木々を黙って眺めた。それからまもなく父は他界した。そして、その1年後、僕は一児の父となった。あどけない息子の顔をみるたび、あの時父が言った一言と、あの一服の味が蘇る。「なるほど、大事にしなければならないものがわかったよ」親父、あの一服をありがとう。
[30代/男性/東京都]
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