【1969/昭和44年】
不規則な仕事をめずらしく早く終えた父が、帰ってきてウイスキーを飲みながら、母と話をしていた。走りよってきた私をひざの上に座らせ、ピースの缶のふたを開けた。どことなく良い香りが漂って、私の頭をよけるように横を向いて火をつけた。まだ、母と話を続けている。煙たいけれど、父のにおいがした。懐とにおいが父の大きさを思いださせる。母との話は私の将来のことだったのだろうか。その後すぐ、父は他界してしまった。あの匂いとけむりは、私を当時に連れて行ってくれるタイムマシンかも知れない。
[30代/女性/大阪府]