1976-1965 昭和50年代
おつかいと言えばたばこ。ささやかなお駄賃がシアワセだった頃

【1981/昭和56年】
それは私が5歳の頃でした。けして裕福ではないけれど、笑いの耐えなかった家でした。当時31歳で、自営業を営む私の両親は、共働き。ろくに休む日もなく、毎日遅くまで働いていました。幼い私はいつも姉とともにお留守番の日々でした。保育園の友だちが「日曜日に遊園地に行った」話しが羨ましくて、親にねだったこともあります。年に数回の両親の休みの日。当時の若い両親と幼い私たちは、夕焼けの中を散歩しました。華やかな遊園地ではなかったけれど、両親といられる嬉しさに、私は心躍らせました。秋日和。夏の名残を惜しむ南風の強い日だったと思います。公園のベンチに座り、父を見上げました。すると、暮れ行く空に、父のくわえたタバコの火が”ぽっ”っと色づき、光りました。「お星さまみたいだね」私は言いました。両親が今の私と同じ年齢の時、私は生まれました。結婚もしていない頼りない自分には、若い二人が一生懸命私を守ってきてくれたこと、そして、夕焼け空に咲いた一つの星の想い出は一生忘れることはないでしょう。
[20代/男性/東京都]
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