1989- 平成
たばこ1つとってもその国の文化がみえてきます

「いっぷくの思い出」入選受賞
【1990/平成2年】
『父のいっぷく』 父はタバコが大好きでした。1日2箱は吸っていたのではないでしょうか。それが原爆病で入院してからは禁煙のお達し。ある日、見舞いに行くと病院の庭で父を見つけました。ベンチに座ってタバコを吸っていたのです。「あっ!ダメ」 かけよって取り上げようとしたとき、父はふうっと空に向かって煙をはきました。まるで雲を作るかのように、のんびり気持ち良さそうに。思わず、足が止まってしまいました。あんなに柔和な顔を見たのは久しぶりだったのです。本当は飛びついてでも止めさせるべきだったのでしょう。でも、あの一服は父の身体に悪いわけがないと思いました。というより、身体のために吸わせておいてあげたいと感じたのです。それが、私の見たタバコを吸う父の最期になりました。おそらく、父は隠れて何度か吸っていたのでしょう。しかし、責める気持ちにはなれません。 ときどき、入道雲を見ると、父が天国で一服しているような気がしています。
[30代/女性/神奈川県]
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