代表 鈴木 みち
住所 〒158-0082  世田谷区等々力3-5-8
TEL 03-3701-1661

 東京23区にありながら、閑静な住宅や緑が豊富で、まるで都会のオアシスのような等々力の街。そんな恵まれた環境の中で、代々たばこ屋を営まれているのが「石川屋 鈴木商店」さん。最近では、見かけることが少なくなった"看板おばあちゃん"の優しい笑顔が、私たちを迎えてくれました。

どうして「石川屋」という店名なのですか?

創業150年の歴史あるお店です。

 本家より安政5年に分家した時に『石川屋鈴木商店』という屋号で商売を始めたんです。当時は、等々力宿という地名を略して『宿』とか『石川屋』と呼ばれていました。九品仏の渡辺家から迎えた初代の婿養子が、暖簾分けをしてのスタートだと思います。創業したのが安政5年ですから、もう150年近く経ちますね。私でちょうど四代目、今年84歳になりました。

たばこを取り扱いはじめたのはいつからですか?

おばあちゃんの雰囲気がとてもお店に訪れたくなります。

 明治初期頃です。私がこの家に嫁いだ頃は、まだ、たばこは配給制だったんです。おじいちゃまが、リアカーでたばこを運んできて、近所のたばこ屋さんに配っていたんですよ。そのほか、ロウソクや電球、マッチ、せっけんなんかも配っていましたね。当時は、マッチやらせっけんも、細かく切って何世帯にも分けていた時代だったんです。

今は、おひとりでお店を?

 そうです。息子も勤めに出ているので、ほとんどひとりで店番をしています。今でも、そろばんを使っておつりや売り上げの計算までしているんですよ。頭のいい運動になります。たばこをお渡しして、しばらくお客様とお話をしていると、御代をいただいたかどうか分からなくなることがあるんです(笑)。だから必ず、いただいた御代は、そろばんの上に置くようにしているんですよ。表通りで嫁がコンビニを運営しているので、私が留守の間は、ちょっと店を見てもらったりすることもありますね。あと、孫たちにもよく手伝ってもらっています。特に自動販売機は、常に補充をしないとすぐに売りきれてしまうので、それを知っている親戚や孫が手伝いにきてくれるんですよ。販売機は、たばこを出し入れするのに力がいるので、孫が手伝ってくれると本当に助かります。

お店は何時から?

店頭にあるおもちゃが昔なつかしさを感じさせてくれます。

 朝は、自動販売機で買われる方が多いので、最近では10時過ぎ頃に開けています。昔は、朝6時には開けないと、先代に怒られたものですけど(笑)。夜は遅くまでお客様がいらっしゃるので、だいたい21時頃まで開けています。なにか用がない限り、お休みはしませんね。この間も、親戚の葬儀があって3~4日店を閉めたんですが、お客様に「長いこと店を閉めてたから、困ったよ」と言われました。販売機に入れていないたばこを、吸われるお客様もいますので、なかなか店は閉められないんですよ。

お店を運営する上で努力していらっしゃることは?

愛用のそろばんにも歴史を感じさせます。

 常に"どうやったらお客様が、店に足を運んでくださるか"を考えています。平成元年までは表通りに店があったんですが、息子たちがファミリーマートを始めるにあたって、店の横に移ったんです。お店がずいぶん狭くなったこともあり、最初は「こんなところへお客様が来てくださるかしら」と心配したのですが、何とか頑張らなくちゃと思いましてね。道路の妨げにならない程度に、看板や旗を出したりもしているんですけど、今は規制があって難しいんですよ。ですから、まずは損得を考えず、お客様に喜んでいただくことを第一に考えています。たばこはどこでも買えるものですから、そのどこでも買えるものを、わざわざうちの店に来ていただくためには、サービス精神が大切ですね。

接客で大切なことは何ですか?

常連さんもいつも迎えてくれます。

 お客様ひとりひとりの特性を見極めて、お客様に合わせた接客をすることです。急いでいる方には、おしゃべりをせず早く商品をお渡しするようにしますし、お話をしたい方には「今日はお天気がいいですね」と言って、お声をかけたりしています。長年この仕事に就いていたおかげで、自然とどういうお客様なのか見分けがつくようになりました。たばこを買わない時でも、「おはよう」と、わざわざ挨拶をしに来てくれる方もいらっしゃいます。

長年、たばこ屋さんを営んでいて嬉しかったことは何ですか?

 「自動販売機より、おばあちゃんから買う方がいい」と言って来てくださる常連さんがいらっしゃるのは、ありがたいですね。孫が言うんですよ、「僕たちが店番してもダメだよ。みんな"今日はおばあさんどうしたの?"って聞いていくからね」って。わざわざバスに乗って買いに来てくれる方もいらっしゃいますから、本当に嬉しいですね。
 主人は昭和42年に他界してしまったんですが、それでもこの店の収入で、子ども3人を育てることができました。だから、商売ってありがたいなぁと思うんです。たばこを売って60年、ここまでやってこれたことを本当に感謝しています。

周辺案内

等々力不動尊

 緑豊かな等々力に鎮座する「等々力不動尊」は、真言宗智山派、三満願寺の別院で、関東三十六不動霊場のひとつとして知られています。境内には「等々力渓谷」を擁し、約500本の桜や、樹齢数百年の大銀杏、また美しい紅葉を見せる楓などの木々が息づいています。交通安全や学業成就をはじめ、さまざまな願い事にご利益があるとして、広く親しまれている不動尊です。

住所:〒158-0082 東京都世田谷区等々力1-22-47
※東急大井町線・等々力駅より徒歩5分

編集後記

 安政から先祖4代にわたり、店を営んできた「石川屋鈴木商店」さん。戦後まもなく、こちらに嫁いでこられたみちさんは、ご主人を早くに亡くされ、ひとりで3人の息子さんを育ててこられました。そんな苦労はみじんも見せず、朗らかな笑顔で店番をされるみちさんを拝見していると『おばあちゃんに、あやかりたい』と言って、訪れるお客様の気持ちがよく分かりました。いつまでもお元気で、看板おばあちゃんでいてください!