代表 綱島 紀文
住所 〒145-0064  大田区上池台2-32-1
TEL 03-3729-5575

 洗足池で長年たばこ屋を営んでいるという綱島たばこ店さん。独自の工夫を凝らしたサービスが、お客さまに好評をいただいているのだそう。そんな対面販売を大切にしているというご主人、紀文さんにお話を伺いました。

戦前から洗足池でたばこ屋さんを?

対面販売を大切にするオーナーの綱島紀文さん

 先代の話によると、たばこが専売制になったときにはすでに営業をしていたと聞いております。当時の店はここから少し離れた中原街道沿いにあり、今ほど道幅も広くないにぎやかな商店街だったんです。祖父の代では雑貨も取り扱っていて、昔は洗足池で釣りができたので、釣り道具なども置いていたらしいですね。また父は和菓子職人で、店の一角を甘味喫茶にしていたこともありました。
 そして戦後、焼け野原となった土地は道路拡張のため元のような家は建てられなくなってしまったんです。そこで土地を探しているときに、近くにあった大きなお屋敷が土地を売ると聞き、父と交流のあった魚屋とすし屋のご主人の3人でこの土地を買い3分割したんです。それが今の店になります。

ご商売には色々な思い出がおありでしょうね

ショーケースにずらりと並んだたばこの見本

 そうですね。やはり一番思い出すのは戦争末期と戦後すぐ、たばこが配給制だった頃のことです。一日に決まった数しか配給されないたばこを求めて、開店時には長い行列ができるんです。私は整理券を配っていたのですが、「最後のひとり」の次に並んだのが家族にたのまれた子どもだとね、その子が泣くんですよ。これは見ていて切なかったですね。それからたばこの仕入れ。現在のように宅配便で注文品が届くようになる前は、青物横丁まで毎日仕入れに行っていました。私は車の運転ができないので、大井町の駅から片道20分以上歩いて行って、そこで仕入れたたばこを肩にどっさりかつぎ、両手には持てるだけ持って…。帰りは大井町の駅までバスを利用していましたけれど、今考えるといい運動でしたね。

お若い頃からずっとそのような生活ですか?

 いえ、私はここを継ぐ前、実はサラリーマンをしていたんです。その後両親といっしょに店へ出るようになり、次第に私が経営の中心を任されていったという経緯です。父母の時代はそれこそ慶弔以外休みなしで働いていましたからね。私もいっしょに店をやるようになって2~3年経ったとき、あまりに大変なので月に一度くらい休むことにしようということになったんです。しかし働くことがあたりまえの両親は休みになると手持ちぶさたで、むしろどう過ごしてよいかわからなかったようです(笑)。そして今から7年前、注文品の配達がなく銀行関係の用事もない毎週日曜日を定休日としたんです。

きれいな店舗で、お客さんも入りやすそうですね

きれいな店構えがファンを増やします。

 今の建物は5年前に新築しました。3階建てで、最上階に長女夫婦と孫、そして2階が私たちの住まいです。長女夫婦は別の仕事をしているので、いつもは私が主に店番、家内は孫の世話でてんてこまいです。そういえばこのあたりも次第に風景が変わるとともに、たばこ事情も変わってきていますね。たとえば駅の売店だけでなく、近くのコンビニもたばこを置くようになったんですよ。その初めの年は、さすがに売り上げも落ち込みましたが、さまざまなキャンペーンを設けたり、いろいろと工夫したサービスを徹底したことで、翌年には売り上げも回復しました。きめ細かいサービスは、大型チェーンではとてもできないことですからね。

この商店街の中には灰皿がたくさん置いてありますね

お勤め帰りに寄ってくださるお客様のために夜10時までお店を開けていてくれます。

 洗足池商店街には通り沿いにスタンド式灰皿が12基設置してあります。そしてそれぞれを灰皿前の店舗が清掃管理しているんです。みんなで協力して町の美化に取り組んでいるんですよ。最近ただでさえたばこを吸える場所が少なくなっていますし、私鉄の駅に喫煙所はひとつもありません。そのせいか、駅に一番近いうちの店前は、いつ見てもたばこで一息ついていらっしゃる方を見かけますね。以前喫煙者はたばこのポイ捨てなど評判が良くなかった時代もありますが、今ではこうやって灰皿のあるところでちゃんとマナーを守ってたばこを吸う人ばかりです。この姿を見るにつけ、喫煙者のモラルは本当に向上したなと感じています。

現在、お仕事の他に何かご趣味は?

個店には珍しい大きな灰皿が設置してあります。

 商売をしていると、なかなか趣味の時間はとれないですね。今は犬の散歩が唯一の運動でしょうか。その犬も、午前中はうちにいますが、毎日午後1時半ごろになると近くに住む弟の家に預けるんです。なにしろたばこ屋は夕方から夜が勝負の仕事。お勤め帰りのお客さまが、次々にカートンで買いにいらっしゃいます。夜の10時に店を閉める頃犬が帰ってくるのでそれから散歩に行くというのが日課です。あとは、たまにとるまとまった休みに娘の家族と旅行をすることでしょうか。娘たちもそれぞれ仕事を持っているので、出かけるとつい孫の面倒を私と我が愛妻(通称:ババちゃん)が見ることになり、のんびりとした休みとはいえないのですが、こればかりは仕方ないですね(笑)。

周辺案内

洗足池公園

 日蓮上人が足を洗ったという言い伝えからその名がついた「洗足池」は、水面の広さ約4万平方メートルもある湧水池。その周囲は桜をはじめ四季折々の花が楽しめる公園となっていて、「勝海舟夫妻の墓」「西郷隆盛留魂碑」など、貴重な文化財も残っています。また、池には貸しボート(有料)、公園には遊具も整備され、いつも家族連れや散策の人たちでにぎわっています。

編集後記

 母校の小学校同窓会のお世話役もなさっているという綱島さん。地元の歴史を温かく見つめ続けてきたお話の数々が、とても印象的でした。取材に伺った午後2時半、うわさのワンちゃんは弟さんの家に行ってお留守だったのが少し残念でした。