代表 太田 正一
住所 〒158-0081  世田谷区深沢5-5-14
TEL 03-3701-0449

 緑豊かな駒沢オリンピック公園のほど近くに店を構える、明治創業の老舗たばこ店太田屋さん。この土地に根ざして百年以上になるたばこ屋さんは、世田谷の歴史を静かに見守ってきました。現在、お店を切り盛りするのは、五代目である御主人の太田明宏さんと奥様のさわ子さん。そして明宏さんのお父様で、渋谷たばこ商業協同組合理事長である太田正一さんに、お話をおうかがいしました。

老舗ということをお伺いしましたが、お店を始められたのは、いつ頃でしょうか?

落ち着いたウッディな外観は目を引きます。

 正一さん:明治の創業です。今は主にお酒とたばこを扱っていますが、その頃は半農半商で、農業をやりながら、なんでも屋から始めました。私が4代目で、息子(明宏さん)が5代目ですね。

お店を始められた頃のこの辺りはどんな環境だったのでしょう?

左)御主人の明宏さん(中央)渋谷たばこ商業協同組合理事長(右)明宏さんの奥様さわ子さん。

 正一さん:周りは畑ばっかりでしたよ。お店が全然なくて、商売をしているのはうちくらいでしたから、便利屋のようなもので、お客さまに「こういうのが欲しい」と言われれば、それを仕入れたりもしていました。私の父の時代は御用聞きもしていましてね。御用聞きには伝書鳩を使っていました。うちで鳩をたくさん飼っていて、急ぎの用事がある人には鳩の脚に、手紙を入れたアルミの筒をくくりつけて放すんです。それが帰ってくると、鳩の脚にはお客さまの注文が書かれた手紙がくくりつけられていますので、その品を配達するんです。

"すごいですね! たくさんの鳩を飼育するのも躾けるのも大変ですし、他にそのようなことをしている人は多くはいらっしゃらなかったでしょうね。

扱うたばこの種類は豊富。珍しいたばこ、葉巻もあります。

 正一さん:そうですね。私の父は伝書鳩を使ったり、犬を躾けたり、好奇心が旺盛で、なんでも新しいものを取り入れることが好きな人でしたから、電話を引いたのもだいぶ早い時期でしたよ。車も自家用車ではなく、ダットサンを購入していました(笑)。戦前は軍もシェパードや鳩を使っていたので、鳩やシェパードを躾るノウハウや、鳩そのものを軍に提供したりもしていましたね。

そのころは、すべてお客さまと顔を合わせての商売でしたよね。

 正一さん:自動販売機も便利でいいんですけど、やっぱり私は人とのコミュニケーションはいいものだと思っているので、手売りが好きですね。朝もお店の前を掃除しながら、通りかかる人に「おはよう」なんて声をかけあうことは大事ですよ。私はどこへ行っても気軽に人に話しかけてしまうんですが、知らない人にもちょっと声をかけると、ちゃんと返してくれるものですよ。世の中怖い人ばっかりじゃないし(笑)。やっぱり商売というだけじゃなく、人と人との触れ合いは大事にしていきたいですよね。

今はお店は息子さんの明宏さんと、明宏さんの奥様で切り盛りされているんですね。たばこも葉巻も、種類が豊富ですね。

バス釣りが趣味という御主人の写真も飾ってありました。

 明宏さん:葉巻は僕がちょっと勉強しに行きまして。箱も置いていますが、一本からでも購入できます。たばこの種類は、やはり自動販売機に入っていないものや、なかなか手に入りにくいものも、「ここでなら買える」と思っていただけるよう、種類を多く揃えています。他にもワイン、コーヒーも置いてあります。

ワインの置いてある木の棚や、たばこのディスプレイも素敵ですね。ディスプレイは御主人と奥様でされているんですか?

たばこの永遠の恋人・コーヒーも置いてあります。

 さわ子さん:ディスプレイは主人がしています。棚の上に飾ってある海の絵も、昔、主人がサーフィンをしていたのでそのときに。海が好きなんです。でも、最近は昔から好きだったバス釣りにかなりはまって1996年からメキシコに4回も行ったり、今は琵琶湖や奈良県の池原ダムまで車で8時間位かけて釣りに行っています。主人は5年程前まで日本バスクラブ(日本バスプロ協会)公認のバスプロを10年間やっていました。今は年齢も45歳になったので引退しましたが、趣味としてずーっとこれからも楽しんでいくみたいです(笑)。そういう意味では好きなものは納得行くまでやる人なので、仕事にもこだわるところには、すごくこだわっていますね。

長い間お店を営まれているので、思い出はたくさんあると思いますが、印象に残っているお客さまとのエピソードはありますか?

ワインも扱っています。木目の棚とレンガ壁が美しい。

 さわ子さん:長いこと、ここにお店があるものですから、私が小さい息子を抱えながら店番をしていたりすると、昔から主人やお店を知っているお客さまから、「あら、大きくなったわねえ」なんて声をかけられたり、息子にも温かい言葉をかけていただいたり。お店だけじゃなく、家族も見守っていただけているような気がして、嬉しかったですね。

先祖代々、この土地でお店を営まれて様々な変化を見守ってこられたと思いますが、これからの太田屋さんの思いをお聞かせください。

 明宏さん:そうですね。時代の流れもあって、周りの環境も、商売にも変化がありますが、僕らはその時々を大切にして長い間ここで商売を続けています。お店の外観も含め、置く商品も僕らなりに考えて、よりよい品物をお客さまに届けられるよう工夫をしています。どういうお店なのかは一度来て、見てもらえればわかっていただけるのではと思います。

周辺案内

駒沢オリンピック公園

 昭和39年開催の東京オリンピック第二会場として使われ、広い園内には12種類の運動施設が揃い、その周囲にはさまざまな大木、高木の並木、森が連なります。緑豊かな園内には四季折々の美しい草花が咲き、訪れる人々の目を楽しませてくれます。サイクリングやジョギング、散歩、憩いの公園として、長年多くの人々に親しまれています。

住所:東京都世田谷区駒沢公園1-1
東急田園都市線「駒沢大学」下車 徒歩15分

呑川親水緑道

 駒沢通りから首都高速道路が上を走る玉川通りまでの、深沢6丁目から8丁目が、呑川親水公園です。整備された川沿いの緑道は桜並木や、四季折々の花木に彩られ、歩く人々の目を楽しませてくれます。鴨たちが水遊びしている様も間近に見られます。

住所:東京都世田谷区深沢1~8丁目付近
※東急田園都市線「駒沢大学」・「桜新町」下車 徒歩20分

編集後記

 お話をお伺いにお店に行くと、キャンディちゃんというかわいい犬が出迎えてくれました。モデルもつとめたことがあるとのことで、カメラを寄せてもきっちりお顔を向けてくれました。話し上手な先代と、快活な御主人、優しい奥様。歴史あるお店ですが、店内はモダンでお洒落な雰囲気。御主人がきっちりと「今」の感覚で丁寧にお店を営まれていることが伝わってきました。