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【1980/昭和55年】
愛煙家である父と、祖父の家に遊びに行ったときのこと。普段は「わかば」を吸っていた祖父であったが、その日は何やらいそいそと一寸した小道具を持ち出してきた。煙草盆である。さらに煙管。父が吸うのとは違う、渋めなパッケージの「わかば」にさえ興味深々だったのに、時代劇のそれしか見たことがない煙管は私の目をひかせるのに十分であった。ある種の儀式の手順を踏むかのようにして火をつけ、ぷっかりと紫煙を吐き出した祖父の姿を眺める私たち親子であった。もういっぷくすべく、火種を手のひらで転がしていたかどうかまでは忘れてしまったが、煙管をくわえた祖父の姿は、あれから二十数年たった今でも脳裏に焼きついている。祖父は今でも達者である。
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