|
【1983/昭和58年】
祖父がなくなった、と連絡が入ったとき、父は電話を切ったあと、静かに一服しました。私と妹はまだ悲しみより、イナカに帰れるのが嬉しくて、はしゃいでいました。母に黒い洋服を着ていけ、といわれ、ダダをこねていたときも、いつもなら雷を落とす父はただ黙って、紫煙をくゆらせていました。なんだか、いつもとは違う父を不思議に思い、「どうしたの?」と父の背中を叩き、ふりかえった瞳には涙がいっぱいたまっていて、私が記憶する限りでは、初めてみた父の涙でした。タバコくさい息で「早くしたくしろ」とぼっそといった父の姿は今でも焼きついています。そして、それがタバコをすう父を見た最後の姿です。
|
|
|
|