代表 | 斉藤 光政 |
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住所 | 〒169-0074 新宿区北新宿3-10-25 |
TEL | 03-3371-7307 |
大久保周辺は、明治時代は高級住宅地として知られ、多くの作家、詩人、文学者などの文士が住んでいました。現在の大久保一丁目には、小泉八雲が晩年を過ごした住宅跡が小泉八雲記念公園として造営されています。戦後は、楽器店が多く集まる街として、そして今は韓国・中国系の人が雑貨店や食料品店、飲食店を営み、多くの外国人が行き交う、異文化交流の街の顔を見せています。そんな大久保で長く酒屋さんを営む山田屋酒店の奥様にお話を伺ってきました。
お店の創業はいつ頃でしょうか?
奥様:昭和32年頃です。今のビルにしたのが、平成4年ですので、この形にしてからはもう24年経ちますね。最初は酒屋で、今は亡くなった義理の母が営んでいました。義父は戦争に行って亡くなったので、義母が親戚の人を2~3人雇って、ずっと酒屋をやってきました。
私はここにお嫁に来てから店を見るようになりました。ここを平成4年に建て直した当時は、店もはやっていて、忙しかったんですよ。でもだんだん街の酒屋さんも減ってきていますよね。だから今はひっそりと知る人ぞ知る店という感じで、お付き合いの長い、いつも来て下さる常連さんを相手にやっています。
昔ながらの常連さんに加え、このあたりに住む外国人のお客様もいらっしゃいますか?
奥様:外国人のお客様もいらっしゃいますよ。3~4年、このへんにいるような方が多いです。この間、アラブ系で日本語も結構話せるような方が「お友達がいるんだけど、何か仕事はないですか?」とか「窓ガラスを割ったんだけど、修理してくれるところは?」って相談されたりしましたよ(笑)。
たばこも珍しいものが売れていくって、主人が言います。今まで置いていなかったようなものが売れたり。住んでいる人が変わると、売れるたばこも変わるんでしょうね。昔なじみの常連さんは、主人が顔と銘柄を覚えていて、すぐに出していますよ。逆に私がわからなかったりすると、お客様に「ご主人ならすぐに出してくれるのに」って言われたりします(笑)。
あとは、近所のお年寄りの方が来るので、椅子に座ってお話しますね。主人は口べたなのであまり喋りませんが、私がいるときはそういう方たちが来ます。
ご近所の方の憩いの場なんですね。棚にパッチワークの作品がたくさん飾ってありますが、これは売り物ですか?
奥様:これは私の趣味なんです。全部一点ものだから、手元に置いておきたくて、売ってはいないんですよ。同じものを二つ作ったら、欲しい方に差し上げたりしますけど。それに、作ったものは一度は使いたいので、使います。
使ったものは売れないでしょ。一度使ったものでもいいって言ってくれる方には差し上げています。
すごくお上手なので売り物かと思いました。奥様は、ご結婚前も何かご商売をされていたのでしょうか?
奥様:私はカネボウ化粧品の美容部員だったんです。化粧品は、例えばデパートを歩いてる方に「眉をカットしましょうか?」って声をおかけして、眉をカットしながらメイクアップしたりしつつ、スキンケア商品からメイクアップ商品まで数万円の商品を売るアソート販売というのが主なんですよ。
それにノルマがあって、今月そのノルマを達成したら来月のノルマはまた上がっていく。限度がないんですよね。そういう営業をずっとやってきて、酒屋にお嫁に来たものだから、その頃はどんどん売り上げを伸ばしていかないといけないって思っていましたね。
接客販売のプロだったんですね。ご商売の家にとっては心強いお嫁さんですよね。
奥様:昔は、もっと売っていこうっていう気持ちが強くて、攻めの姿勢でしたね。でも、今はお客様が欲しいと思っているものだけを売る。お客様が必要としていないものは無理に勧めない、守りの姿勢ですね。お客様の役に立てればいいなと思っています。
欲がなくなっちゃったのかな(笑)。商売は本当はそれではダメなんでしょうけどね。でも、お年寄りのお客様に、店で何か買わなくても、ちょっと遊びに来てお喋りしていくだけでも大丈夫って思ってもらえれば、来やすいじゃないですか。そうすると、中には「悪いから何か買っていこう」って思ってくださるお客様もいらっしゃいますし。
でも、それは無理に勧めてるわけではないんですよ。そういう商売への考え方は、若いときとは変わりました。気持ち的には今のほうが楽です。セールスって大変でしょ。それをずーっとやってきましたが、今はそういうところから抜けられて、ホッとしている感じです。
周辺案内
新大久保コリアンタウン
JR中央線大久保駅から、JR山手線新大久保駅を通って明治通りまでを横断する大久保通りを中心とした周辺をコリアンタウンと呼ぶ。2000年代の韓流ブームに乗って、韓国系飲食店、食料品店、アイドルショップなどが続々と開店した。休日には多くの観光客で賑わう。
新宿区百人町1丁目~大久保2丁目周辺
JR山手線「新大久保」よりすぐ。
皆中稲荷神社
寛永年間、徳川幕府が置いた鉄砲組百人隊のある与力が、射撃が上達せず悩んでいたところ、稲荷之大神が夢枕に立ち霊符を示した。翌朝与力がこの神社に参拝をすませ射撃場に行くと、百発百中だったことから、「みなあたる(皆中)の稲荷」として多くの信仰を集めた。
新宿区百人町1-11-16
JR山手線「新大久保」より徒歩1分。
編集後記
とても朗らかに明るくお話をしてくださった奥様。ご近所の方々が奥様とお喋りをしに、遊びにくるのも納得です。そして、ご主人は外に置いてある灰皿を毎日朝晩二回ずつ掃除されているそうです。それだけ吸い殻が多いということですが、灰皿を利用する方のほとんどは、買ってくださるお客様ではありません。それでも、喫煙できる場所も減ってきているので、たばこ屋さんは常に灰皿を綺麗に掃除し、喫煙者が利用しやすいよう心を砕いています。最近は条例も増え、喫煙者のマナーも向上してきましたが、喫煙場所を提供してくれる街のたばこ屋さんの心配りや気遣いにも、気づける喫煙者でありたいと、改めて思いました。