代表 水野都久雄
住所 千代田区神田神保町1-10-8
TEL 03-3291-3666

神保町といえば、今も昔も本の街ですが、近年はカレー、名店のお蕎麦、レトロ喫茶などグルメタウンとしても多くの人を呼び寄せます。平日の昼間でも近辺の大学に通う学生や会社員だけではなく、インバウンドの観光客も多く見られました。

そんな多くの人が行き交う神保町の駅前にある水野商店さんのご主人にお話を伺ってきました。

お店の創業はいつ頃でしょうか?

約400銘柄。圧巻の品揃えです。

ご主人:大正10年です。神田明神下で私の祖父が履物屋を始めました。今は外神田といいますが、旧地名で同朋町というところです。結構手広くやっていて、銀座にあった白木屋というデパートにもお店を出したりしていたようです。当時は靴ではなく草履や下駄をみんな履いていて、履物屋は至るところにあったんですよ。

その後、昭和に入ってから大空襲で全部焼け野原になってしまい、うちは長野に疎開していました。一年くらいで戻ってきて、祖父がどこか商売できる土地はないかと探して、都電があって人通りもあるここ神保町に決めました。たばこを扱い始めたのは昭和22年頃ですね。

ご主人がお店を継いだのはいつ頃でしょうか?

日本のたばこはもちろん手巻きもパイプも。

ご主人:私は昭和36年に高校を卒業して履物屋さんの修業に行くことが決まっていました。小田原のほうに私の面倒を見てくれるという大きなお店があって、そこで2年くらい修業しました。

帰ってきてしばらくしたら、都電が廃止になったんですよ。そうしたら、このへんは人通りがなくなっちゃったんです。神田とか国鉄の駅のほうをみんな利用して神保町には全然人が通らない時代が2〜3年ありました。

その後、地下鉄の工事が始まり、うちがどかされちゃったんです。知り合いが「そういう事情ならいい場所があるよ」って足立の千住を紹介していただきました。神保町ではもう草履や下駄はあまり売れなくなっていましたが、足立のほうはまだみんな下駄を履いているんです。というのも、道が舗装されておらず、悪かったからですね。だから千住では履物がよく売れました。

ところが良かったのは3年くらい。うちの店がある商店街とは違う通りに大きなお店ができたんです。そうしたらみんなそっちの道を通るようになっちゃった。ガラッと変わってしまいました。千住のほうがダメになった頃に父の具合が悪くなってお店ができないというので、また神保町に戻りました。

ご主人が再び神保町に戻って商売を始めたときにはどんなものを扱っていたんですか?

葉巻もあります。

ご主人:たばことサンダル、あとは袋物です。袋物というのはちょっと買い物に行くときに持っていくような手提げのバッグですね。お出かけ用の高級なバッグではなくて、日常で使うようなもので、当時はよく売れました。

だんだんバブル時代に向かって景気が上向いていくなか、周りのお店がまだ外国たばこに力を入れていない頃から、私は外国たばこを置くようにしました。中国の「中南海」は今では当たり前にありますが、当時は扱っているところはそんなになかった。外国たばこもたくさん置くようになってからは、お客様も遠くから買いに来てくれるようになりました。

たまたまバブルの波に乗りながら、うまくいったんでしょうね。当時は、何を置いても売れる時代でした。

宝くじも扱う今のお店の形態にしたのはいつ頃でしょうか?

靖国通りと白山通りの四つ角にあります。

ご主人:宝くじを扱うようになったのは20年くらい前だと思います。私は今はもうお店に出ていませんが、私の長男と次男が見ています。コロナ禍のときは、みんな会社や学校に出てこないから本当に人が通らなくて大変でした。

たばこの売上げもずいぶん下がりましたが、今はまた少しずつ回復してきているところです。

ご商売をされる上で気をつけていらっしゃることは?

お話を伺ったご主人。

ご主人:お客様には正直に親切に笑顔で接することです。朝起きて鏡を見てニコニコするんです。昔はキツい顔をしていたんですよ(笑)。でもそれは商売人としてはいけないなと思って毎朝笑顔を作っていました。

バブルの時期は椅子に座る間もないほど忙しかったですが、その最中でも、この景気は長く続かないという感覚があって、今は頑張って売るだけ売ろうと決めていました。自分が頑張ったらそのぶん店も繁盛したから、全然苦じゃなかったです。

それから場所柄、道を訊ねる方が多いですが、そういう方々にもちゃんと教えてあげなきゃいけないと思っていました。そういう方たちがお客様になるかもしれませんしね。お客様には自分のできる範囲で常に笑顔で親切に、を心がけていました。

周辺案内

明治大学博物館

明治大学の学生や卒業生のみならず、誰にでも無料で開放している博物館。45万点を超える資料を収蔵しており、常設展や館蔵品展で公開されます。興味深い企画展もたびたび行われ、訪う人の探究心を刺激してくれます。

千代田区神田駿河台1-1 明治大学駿河台キャンパス アカデミーコモン地階
JR中央線・総武線「お茶の水」下車徒歩5分

錦華公園

平日の昼間は近くのビジネスマンや学生たちの休憩場所にもなっており、都会の中にあって、ほっと一息つける公園。2024年に整備工事が完了し、遊具や手すりなどの設備が新しくなりました。

千代田区神田猿楽町1-1-2
都営三田線・新宿線、東京メトロ半蔵門線「神保町」下車徒歩5分


編集後記

お店の歴史や神保町界隈のお話を丁寧にお話ししてくださったご主人。創業から折々に営業の形態を変えつつ、激動の時代を経て今に至ることがよくわかり、感心しながらお話を伺いました。

お店では約400銘柄を扱っていて、葉巻や手巻きたばこもあります。四代目であるご主人の息子さんにも少しお話を伺うと「コンビニとの差別化を少しでも図っていかないと」と仰っていました。

神保町駅前、靖国通りと白山通りの四つ角にある水野商店さん。ぜひお立ち寄りください。