代表 田所 綾子
住所 台東区浅草

 先代がたばこ屋を創業してから浅草に80年。三代目になられる田所綾子さんと娘の龍子さんが切り盛りされているたばこ屋さん、「コンビアン田所」をご紹介します。江戸・浅草といえば、言わずと知れたところ。浅草カーニバル、三社祭などで見られる“イキ”な面と、浅草寺付近で見られる江戸の情緒を求めて、世界各国から人々がやってきます。今回は、文化の風を感じさせてくれる浅草でお話を伺いました。

もともと、たばこ専用のお店だったんですか?

田所綾子さん(右)、龍子さん(左)。お店は新しく、きれいに改装されています。

 綾子さん:そうです、先代の頃からたばこ中心で今までやってきました。ジュースとお菓子・新聞・雑誌なども扱っていますが、コンビニやなんかがありますから、今はたばことジュース屋になっています。

今のお店は新しいようですが?

お店の中の様子。180種類以上のたばこがきれいに並べられています。

 綾子さん:1986年に今の建物を新しく建てたんですけど、今年の5月にお店の内装と外観をきれいに塗り替えたばっかりなんですよ。

昔のたばこ屋さんは、どんな感じだったんですか?

 綾子さん:昔はとても優雅だったみたいですよ。
 吉原にきざみたばこを人力車で届けたっていうぐらいですから。
 昔はこの近くに、沢村貞子や沢村国太郎が活躍していた芝居小屋(宮戸座)があって、そこのチケットをうちでも売っていたんだけど、その時のポスターなんかをとって置いてたら“なんでも鑑定団”に出せたのにね。
 捨ててはいないと思うからどこかにあるとは思うんだけど・・・

たばこの商売をされていてご苦労、気をつけていることはありますか?

右がたばこ屋さん「コンビアン田所」、左が喫茶店「シェンブルン」。

 綾子さん:そんなに苦労はないけど、一番気をつけていることは品切れにならないようにすること。持ちすぎても困るけど、せっかくいらしたお客様に、“ないです”なんて言いたくないんで。あと、お祭りの前の仕入れは博打みたいなものですね。何が売れるかわからないし、お客さんも普段とがらっとかわるでしょ、予想が付きません。

お客さんはどんな方がいらっしゃるんですか?

息子さんが経営する喫茶店「シェンブルン」のケーキとコーヒー。フランスに修行していたというプロの職人さんです。

 綾子さん:この辺は、花柳界関係の方がたくさん出入りする地域なので、そういうお客様が多いですね。あと、飲み屋さんなんかも買い置きするのにまとめて買っていかれる方もいらっしゃいます。昔は20個入りのボールなんかもあって、大量にまとめ買いしていかれたんだけど、今は種類も多いし同じ銘柄しか吸わないお客さんが殆どですからどうしても細かく買っていかれます。だから、お店も深夜0時頃までやってるんですよ。でも、夜は娘が見て、私は朝8時から見ています。
 龍子さん:ワールドカップの時は、山谷に外国の方がみんな泊まっているから(インターネットで注文すると3200円が2700円)いろいろな国のサポーターがうちに来て、ジュース買っていったり、道案内したりしていろんな国の方とお話しましたよ。私はサッカー大好きだから、話が盛り上がっちゃって。

お祭りのときは、やはり忙しいですか?

隣にある浅草病院。建物は改装されて新しくなっていますが土地柄、風格を感じさせます。

 龍子さん:お祭りのときは48時間営業ですよ。
 お店の前の道路には人が溢れて、1年に1回はちょうどワールドカップの時の歌舞伎町のコマ劇場の前みたいな感じになるなるんです。
 でも昔はもっと大変で、年に3回徹夜したんですよ。大晦日と三社祭のお祭りとほうずき市。今は三社祭りだけですけど。

浅草の穴場スポットは?

 龍子さん:そうですね、浅草も広いですし、老舗、名店はたくさんありますね。仲見世の方だけでなく公園五区の辺りにも、結構知られていないお店がありますよ。
 弟が隣で喫茶店をやってるんですけど、自家製手作りのケーキとコーヒーがおいしいんですよ。チーズケーキがとても人気で、早くに売り切れてしまうんです。
 浅草に来られた際には、仲見世を通って、うちの方まで足を延ばしていただいて、たばこ買って隣の喫茶店で手作りケーキとコーヒーでも頂いて、ぜひ、一休みしていって下さい。

周辺案内

浅草

 仲見世は日本で最も古い商店街の一つです。仲見世の始まりは、徳川家康が江戸幕府を開いてから江戸の人口が増え、浅草寺への参拝客も一層賑わいましたが、それにつれ、浅草寺境内の掃除の賦役を課せられていた近くの人々に対し、境内や参道上に出店営業の特権が与えられました。今の仲見世には88店の店舗があり、長さは約250メートル。雷門をくぐった瞬間、見事な日本的情緒に胆を馳せられます。(写真左)

 浅草寺の総門である雷門は、浅草を代表する顔です。正式名称は、風雷神門。門の右側に風雷像、左側に雷神像を安置しています。中央に吊り下がる大提灯は、高さ4m、直径3.4m、重さ670kgです。平成4年12月に改修され、新しくなりました。
 雷門は正しくは「風雷神門」といいます。門の右に風神、左に雷神が祀られていますが、いつしか「雷門=神鳴門」とだけ呼ばれるようになりました。人々はこの二神像を風雨の順時と五穀豊穣による天下泰平を司る神として崇めています。(写真右)

吉原神社

 明治8年に新吉原遊廊の四隅に祀られていた四稲荷と地主神の玄徳稲荷を合併して吉原神社となり、さらに、昭和10年に吉原弁才天を合併して、今の吉原神社となった。もともと吉原遊郭の守り神であり、初午の参拝は有名である。

編集後記

 上品にお話になる綾子さんと、英語が達者で知的さを感じさせる龍子さん。喫茶店の“シェンブルン”というお名前も、ウィーンの「シェンブルン宮殿」からとったものだそうです。そして大のサッカーファンで、オランダまで見に行った程です。きっと、国際色豊かな街で育ち、独自の文化を誇りに持つことで自然と海外に目が向いていったのかもしれません。浅草で育んだ80年の歴史が、これからも代々続いていくことを願っています。