代表 武井 壽
住所 〒116-0011  荒川区西尾久7-53-13
TEL 03-3893-1540

 ゆったりとした風情漂う都電荒川線。今回は、そんな都電荒川線の「荒川車庫前」に位置するたばこ屋「武井商店」さんです。ご主人亡き後、71歳になる奥様が、どのようにお店を守ってこられたのか。その軌跡と健康の秘訣をお伺いしました。

たばこ屋を開業したのは何年くらい前ですか?

「荒川車庫前」に位置する武井商店

 この店は、3年前に亡くなった主人が、昭和29年に開業しました。現在は、都電の停留所がすぐ目の前にありますが、当時は少し離れた場所にあったんです。それが、家の前に移動することに決まりまして、「人通りが多くなるから、商売をすればうまくいく」と、主人は開業を決意したようです。それまで勤めていた会社を辞めて、その退職金を元手に、たばこ屋を開業しました。当時はたばこだけでなく、駄菓子なども取り扱っていたんですよ。私が嫁いできたのは、たばこ屋を始めて2年ほど経ってからでした。

商売人への転向は、慣れるまで大変だったでしょうね。

菓子や飲料も販売しています

 一番辛かったのは、主人の両親が病気をしたときですね。
 主人とふたりで店を切り盛りしながら、まだ小さな子どもたちの面倒と、両親の介護をしていました。当時は、朝7時から夜10時まで店を開けていましたので、本当に休む暇もありませんでした。昭和35年から42年くらいまでは、そんな状態が続いていましたね。当初は、日曜日もお店を開けていたんですが、さすがに主人も私も体がきつくなりまして…。それで昭和40年頃からは、日曜日だけは店を閉めさせていただき、ゆっくり休むことにしたんです。
 主人はあまり体が丈夫ではなかったので、休みの日にも出歩くことはありませんでした。大好きなお酒を飲むことが、楽しみだったようですよ。

現在、お店番はおひとりで?

 3年前に主人が亡くなってからは、私が店番をしています。しばらくは淋しい思いをしましたが、在庫管理、店の掃除、自動販売機の補充など、相変わらず忙しい毎日を送っていますので、それが張り合いになっています。一緒に住んでいる息子も、夜にはいろいろと手伝ってくれますよ。
 また、おととしには店を改装しまして、店内の雰囲気もずいぶんと明るくなりました。もちろん、主人との思い出はたくさんあります。主人は、とてもたばこが好きな人だったので、新発売されたたばこは、必ず自分で味見をして、お客様におすすめしていました。だから売り上げも良かったですよ。いつも新発売のキャンペーンでは表彰されていましたからね。

清掃活動にもずいぶん力を入れてこられたようですね。

改装前の武井商店

 清掃活動は、昭和50年からずっと続けています。今年で、もう31年目ですね。今では、あちこちの区で行われていますが、最初に始めたのが、この足立・荒川たばこ組合なんです。
 そのキッカケになったのは、近所で起こった火災でした。今でもよく覚えていますが、昭和50年4月11日、朝から風の強い日でした。午前9時30分頃、30メートルほど離れた向かいの店を見て、「様子がおかしい」と、すぐに主人が消防署に通報したんです。風の強い日だったので、発見が遅れていたら大変なことになっていたでしょうね。後から、「早く通報してくれて助かった」と、消防署の方からお礼を言われました。そんなこともあって、消防署から「火災予防週間」に清掃キャンペーンをしてくれないか、と依頼されたんです。それ以来、ずっと清掃活動を続けています。

今までお店を続けてこられた中で、嬉しかったことは?

植物が和ませてくれます

 やはり、長年この場所で店を続けておりますから、常連のお客様がたくさんいらしてくださることでしょうね。用事があって、少し店を閉めていただけでも「どうしたの?具合でも悪いの?」と心配してくださいます。ですから、おちおち店も休めませんね(笑)。また、自動販売機でたばこを買ったお客様でも、わざわざ窓口にいらして「今日はいい天気だね」なんて、声をかけてくださることもあるんです。そうしたお客様の存在は、とってもありがたいですね。ですから今でも、日曜日以外はお店を休みませんし、朝の7時から夜の7時半まで、できるだけ店番をするようにしてるんですよ。

とてもお元気そうですが、健康の秘訣をお聞かせ下さい。

ラジオ番組にも紹介されました

 今年で71歳になりますが、足腰が少し弱くなった以外は、おかげ様でとても元気です。風邪も3年に一度くらいしかひきません(笑)。いつまでも、こうして健康でいられるのは、やはり店のおかげではないでしょうか。毎日、『お客様が待っているから店を開けなくては』という気持ちが、張り合いになっているのだと思います。あとは、年に一度、組合の方々と出かける日帰り旅行ですね。先日も、都内のバスツアーに参加してきました。都庁や消防署のレスキュー隊見学に始まり、東京湾クルーズや、麻布十番での食事など、とても楽しい時間を過ごすことができました。これからも、これらを励みに、元気に店を続けていきたいですね。

周辺案内

都電荒川線の風景

 都内で唯一、路面を走る電車「都電荒川線」。車社会となった今日でも、人々の欠かせない足として、早稲田~三ノ輪橋間の約12キロを走り続けています。
 心地よい揺れを感じながら、車窓から街並みを眺めると、いつも見慣れたはずの景色でも不思議と新鮮に感じます。それぞれの駅には見どころがあるので、気の向くままに下車し、周辺を散策してみるのもオススメです。

飛鳥山公園

 都電荒川線の王子駅で下車し、徒歩3分の場所に位置する「飛鳥山公園」。
 江戸時代より、桜の名所として親しまれてきた「飛鳥山公園」には、約650本の桜や、約1万5000株のツツジ、約1300株のアジサイなどが植えられ、四季折々の表情で訪れる人々を楽しませてくれます。また園内には、都電荒川線の旧車両「都電6080」が展示されているほか、「飛鳥山博物館」「紙の博物館」「渋沢史料館」の3つの博物館が建てられています。

編集後記

 とても71歳とは思えない若々しい武井壽さん。数々の苦労もおありだったでしょうが、そんなことを微塵も感じさせない明るさで、楽しいお話を聞かせてくださいました。
 きっと、その温かい人柄に癒されるために、こちらを訪れているお客様も多いことでしょう。これからもお元気で、素敵な笑顔をふりまいてくださいね。