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【1996/平成8年】
成人式の帰り、父親にタバコを1カートン買いました。自分が成人式に出たことで、今まで育ててくれてありがとうと言う気持ちをこめて、父がよく吸っていたタバコを買いました。しかし、当時はお互い父と娘で話す会話もほとんど無かったので、うまくそう言うことが出来ずに、私はそのタバコを渡せないまま部屋の中において置きました。タバコに気がついたのは母でした。私が親に隠れてタバコを吸っていると思った母は、私が買ったそのタバコのことを父に話し、私は突然にしかられました。「いくら成人したからって、こんなふうにタバコを部屋に買いこむなんてよくない!」そう言われ、私は弁解する気持ちも無くなりました。それからたばこのことなどすっかり忘れてしまっていたある日、父親がふと私の部屋に来て、「おまえもすっかり大人になったなー」と話し出しました。父も照れているようで、会話がぎこちないままに、「彼とかいるのか?」「仕事はたのしいか?」と話す父に、なんとなく、親心を感じました。私はタバコを思いだし、父に渡しました。「これ、お父さんに買ったの」父はしばらくだまっていましたが、その中から2本を出すと、1本を私に差し出し、「おまえも吸ってみるか?」と言いました。私はそれまでタバコを吸ったことが無かったのですが、父の好きなタバコの味を知りたいと思いました。そっと息を吸いこむと・・・煙が口いっぱいになり、むせ返ってしまいました。「は、は、はっ・・おまえにはまだタバコは早いな」そう言って父は笑っていました。でも、父と吸ったそのたばこのいっぷくが私に、父の想いを教えてくれた気がしました。今でも父のお気に入りのタバコをみつけると、あの日の父とのいっぷくを思い出します。
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